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そして銃声とともに目覚めた僕は、自分が何も見えない闇の世界にいることに気づいた。
――やばい、死んでしまった。 何が起きたのか必死に考えてみる。 * * * たしか僕は逃げていた。銃を備え緑色の迷彩服を着た兵士の集団からだ。 なぜ逃げていたんだろう。理由が思い出せない。 とにかく捕まってしまったことは事実で、手と足を鎖で縛られた状態で金属の柱にくくりつけられ 「どうか殺さないでくれ」と涙を流して嘆願していたことは覚えている。 * * * ここまではよくある夢だ。 昔から何度も見ている。 だから夢の中の僕でさえこれが夢の中の出来事であることを知っていて、大概は撃たれる直前に死にたくない一身で願いを「殺さないでくれ」から「夢から目覚めてくれ」に変え、そして銃弾が体をつらぬくコンマ何秒かの差で無事に現実世界へと戻ることができるのだが、なぜか今回は失敗してしまったようだ。 撃たれてしまった。 僕は死んでしまった。 * * * やがて気づいた。 何も見えない闇の中で僕は今、自分が死んでしまったということについて考えていた。 でもそれは、生きているときと何らかわりがないようだ。 ――そうか、人間はたとえ死んだとしても自我を失わないのか。 高校のころ読んだショウペン・ハウエルの本には、 人間は死ぬと自我も含めて完全に消え去り 無となってしまうという類のことが書かれていたけれど、それは嘘だったみたいだ。 よかった。死んでも何かを考えることはできるんだ。 でも僕はこれからどうなるんだろう。 よし。まず、それについて考えてみよう。 それにしても、死してなお人間が死んだあとにどうなるか考えるとは思わなかったなぁ―― * * * それからさらにしばらくして、奇妙な音の存在に気づいた。 それは一定の間隔をおいて響いている。 ――なんか時計みたいだなぁ ん、時計? あ"っ、僕は死んでいない―― そのとたん世界が変わった。 僕は肉体の存在を思い出した。 手に力を入れてみた。 ――動くぞ 僕は起き上がり、電気のヒモを引っ張って明かりをつけた。 あれはやっぱり夢だった。 部屋を真っ暗にして眠るのはもうやめよう。 こうして世にも恐ろしい夜は終わりを告げた。
by shioire
| 2005-09-13 01:25
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